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気軽に利用できる町医者のような存在に その拠点は…東北駆け込み寺

2023.09.17
 ホルモン焼きやバーなどの小さな店が軒を連ねる仙台市中心部の壱弐参(いろは)という横町。長年にわたって地元で愛されてきた通りに、一般社団法人「東北駆け込み寺」は拠点を構える。一見すると場違いにも思えるが、「敷居は低く、誰でも利用できるように、あえてここにしたんです」。代表理事の織笠英二さん(69)は優しくほほえんだ。
 家庭や仕事、お金や心、恋愛など、ありとあらゆる悩みごとに無料で相談に応じる。拠点は宮城県内に4カ所あり、この春、盛岡市にも開設した。
 今年に入り、8月末までに寄せられた相談は253件。相談者は20代から80代まで。相談の種類もさまざまだ。
 そのうち、DVや虐待、生活困窮など行政機関の援助が必要なケースは2割程度。ほとんどは相談できる窓口がないようなものだ。夫と会話がない50代の女性、将来に不安を抱える話し相手がいない30代の独身男性……。
 「家族にも友人にも誰にも言えないような悩みを抱える人が多い。人は誰かに話すだけで落ち着くんです」
 大手企業のシステムエンジニアだった2011年、東日本大震災が起きた。取引先を支援する担当になり、個人でも仲間と被災地に足を運んでボランティア活動に携わった。すべてを失った人たちから、人生の歩みや地域の伝統・文化など記憶を聞き取って詳細にまとめる活動にも取り組んだ。
 すると、困りごとや愚痴を打ち明けられた。話すと表情が明るくなった。
 ボランティアがいなくなると、悩みをはき出せる場がなくなるのではないか。12年7月に「日本駆け込み寺」(東京)の仙台支部として活動を始め、18年に任意団体を設立。ホームページ(「仙台駆け込み寺」で検索)で相談先を公開してきた。
 相談を受けるのは全員ボランティア。「人の役に立ちたい」という気持ちさえあれば経験や資格は不要で、登録したその日から応対を任す。学生や主婦など100人以上が活動する。
 「一方的にアドバイスしたり、何かを教えたりすることはありません。カウンセリングもしません」。相談者に寄り添う雰囲気づくりに重点をおく。
 「震災やコロナ禍を経て、今、弱音を言えない人が多い。発足したこども家庭庁が対象にしていないような、光が当たらない人こそ連絡して欲しい。気軽に利用できる町医者のような存在でありたい」(小幡淳一)
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 おりかさ・えいじ 岩手県山田町生まれ。震災の被災地で、なぜ自分だけ生き残ったのかと悩み苦しむ訴えに耳を傾けた。避難所では人々のゆがんだ心を目の当たりにした。「知らない人だからしゃべるのでは」。相手を思いやり、「大変でしたね」と声を掛けた。それが活動の原点だ。