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東京2020大会から1年 大会で活動したボランティアは今

掲載日:2022.09.26

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)から1年の歳月が流れました。それでも多くの人々の記憶に、大会の思い出や感動は色鮮やかに刻まれています。コロナ禍による1年の延期があり、ほとんどの競技が無観客での開催という過酷な状況のもと、東京2020大会を支えたのは多くのボランティアでした。

ボランティア一人ひとりが日常生活に戻ったり別の活動に取り組んだりする中で、東京2020大会のレガシーはどのような気づきを与え、どのように根付こうとしているのでしょうか?

2022年7月23日に開催された「東京2020大会1周年記念セレモニー」の模様や、参加したボランティアの方々の思い、さらには東京2020大会でのつながりをきっかけに活動をスタートした団体について取材しました。

開会式から1年後、ボランティアたちの晴れ舞台

1周年記念セレモニーでパレードに参加するボランティア

あの夏から1年。東京2020オリンピックの開会式が行われた国立競技場で、「東京2020大会1周年記念セレモニー」が開催されました。ちょうど1年前の7月23日、開会式は無観客でしたが、この日の来場者数は約1万5000人。観客席に人々が戻ってきました。また、パレードに当選したボランティアだけでなく、同時に行われた競技体験などのイベントの運営に携わるボランティアも多く駆けつけました。

パレードで入場してきたのは、大会で活躍した選手たちや聖火ランナー、関係者など。そして、「最後に東京2020大会ボランティアの皆さんです!」のアナウンスとともに、300人以上のシティキャスト(都市ボランティア)やフィールドキャスト(大会ボランティア)が登場。

ボランティアたちは胸を張り、観客席に向かって笑顔で手を振ったりしながら、国立競技場のトラックを歩く感触を確かめます。客席からたくさんの拍手で迎えられる景色は、一生の思い出に残るのかもしれません。

フィールドキャストとして活動した30代男性は「無観客やいろんな大変な状況があっても、ボランティア一人ひとりの活動には意味があったと思います。一人ひとりの笑顔があったからこそ、大会がうまくいったのではないでしょうか」と話し、「今日はボランティアの晴れ舞台。うれしいですね」と、パレードに臨む気持ちを語っていました。

大会を機にボランティアへの参加意欲を高めた人は多く、80代のシティキャストの男性は「体力的な問題はありますが、世の中に恩返ししたい気持ちはまだまだあります。自分に合ったものを探していきたい」と話していました。

大会後にスタートした国立競技場の美化活動

大会1周年のセレモニーから、さかのぼること13日前。国立競技場の周りは人も少なく、静かな日曜日の朝です。集まってきたのは、シティキャストのユニフォームを着た男女19人。東京2020大会終了後の2021年10月に活動をスタートした「TEAM 2020」のメンバーです。

軍手を着用したメンバーたちは、片手にトング、片手にビニール袋。毎月1回、第2日曜日にオリンピック関連施設(主に国立競技場)の周辺で、TEAM 2020は美化活動を行っています。

2班に分かれて、国立競技場を1周。和気あいあいと世間話に花を咲かせながらも、足元の歩道や周辺に目を凝らしつつ、見つけたゴミを拾っていきます。普段は歩いていて気づかないようなゴミでも、熟練のメンバーは見逃しません。たばこの吸い殻やお菓子の空き袋などを次々とゲットしました。

お互いにコミュニケーションをとりながら、美化活動を続けていました。

前日に5万人以上を集めたラグビーの国際試合がありましたが、ゴミの量はいつもと変わらない程度。それでも電卓やタイルカーペット、おみくじなどの意外なゴミが、歩道の脇や植え込みの中などから見つかります。集めたゴミは分別し、国立競技場に引き渡しました。

最後は、持ち寄ったお菓子を“もぐもぐタイム”のようにみんなで食べます。暑い最中のゴミ拾いだったので、アイスにはメンバーも大喜び。チームワークと温かい雰囲気が感じられる活動でした。

和気あいあいとした雰囲気で活動しています。

匿名でのつながりを通じての新たな交流

美化活動中、TEAM 2020のメンバーは頻繁に声を掛けられます。「駅への道を教えて」「記念写真のシャッターを押してほしい」といった頼みごとにも丁寧に応えるのは、ボランティアの本領を発揮する瞬間でもあります。

「とても楽しく活動させていただいていますけど、このユニフォームを着ていることは、皆さんの目線があるということ。ですから、すれ違う人にあいさつしたり、地図を持ち歩いたりして、ちゃんとしなきゃいけないと思っています」

そう語るOliveさん(ハンドルネーム)は、ほぼ皆勤賞で参加している女性。「大会関連ボランティアの当選倍率が高くて、私はたまたま3回当選できたのですが、もっと活動したかったという消化不良な思いもありました。そこに、シティキャスト運営事務局のネット掲示板でつながっていた方々からお声掛けをいただきました」と参加のきっかけを話してくれました。

元はネットでつながった縁から、メンバー同士は基本的にハンドルネームで呼び合って、お互いの年齢なども知りません。「それはむしろ良いことだと思います。初対面でも遠慮なく打ち解けることができて、魅力的な方々ばかりです。これからもこの輪が広がっていくと嬉しいです」とOliveさん。

メンバーとの交流を通じて、スポーツボランティアの募集の情報を得たり、ウクライナ支援のボランティアに参加したりしたとのこと。東京2020大会への思いは、Oliveさん自身のボランティア活動をより豊かなものにしているようです。

美化活動の楽しさを語るOliveさん

「ユニフォームを着る機会を」から生まれた活動

TEAM 2020の設立メンバーの一人であるyさん(ハンドルネーム)は、「活動のきっかけは、『一度でもいいから、ユニフォームを着て活動したかった』という掲示板への書き込みです。東京都外に住むシティキャストには、活動の機会がない方もいたと聞いています」と言います。

パラリンピック終了とともに事務局の掲示板が閉鎖されると、yさんらは自分たちで新しい掲示板を立ち上げ、ユニフォームを着て活動する場として、東京2020大会のメインスタジアムでのゴミ拾いを選びました。

「活動中にシティキャストやフィールドキャストだった方から声を掛けられることもあり、私たちと同じ思いの方がいることを感じます」とyさん。同じグループの目印として今はユニフォームを着ていますが、元シティキャストでなくて参加を希望する人にも当日に帽子を貸しているそうです。

今後の活動をどう広げるかは未定ですが、「個人的には、他のグループと何か一緒にできる機会があれば面白いですね」とyさん。できる限り長く活動を続けたいと考えています。興味のある方は、TEAM 2020の『団体紹介』ページをご覧ください。

人がリアルに交流するのが難しい状況を乗り越えて生まれた、TEAM 2020の活動。さまざまな人々の思いが集まって、リアルな活動に反映できることを浮き彫りにしてくれました。ボランティア活動が人の絆を生み出し、絆がまた新しい活動を生む。そのサイクルは、これからもレガシーとして受け継がれていくでしょう。