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市民が手がける二つの「新聞」 発行を続ける思いを取材

2024.04.23
 【滋賀】大津市役所の記者クラブに、市民が手がける「新聞」が定期的に届く。今月100号を迎えた「日吉台新聞」と、40年あまりの歴史がある「膳所市民ニュース」。発行を続ける思いを聞く取材は、メディアについて考えさせられる機会となった。
 大津市の日吉台学区は比叡山のふもとにあり、昭和の時代にニュータウンとして開発された。現在は高齢化が進み、3月末時点の人口は3532人で、半数が65歳以上だ。
 日吉台新聞は2016年1月に創刊した。毎月1日に発行し、自治会を通じて学区内の各家庭に無料配布。今月の4月号で100号の節目を迎えた。
 創刊号から一貫して手がけてきたのは、日吉台学区自治連合会長の野々口義信さん(80)。毎日新聞で、地方記者として68歳まで勤めた。
 退職後、自治会の役員になり、情報を住民に伝える方法を模索した。回覧板で回しても読んでくれない。高齢者にとってインターネットはハードルが高い。考えた末に、新聞を発行しようとなった。
 新聞はA3サイズ1枚で、両面に記事を掲載。自ら取材して、市販のパソコンソフトを使って自宅で編集し、市民センターで印刷する。それらをボランティアで行っている。
 右上に「日吉台新聞」の題字があり、記事は全て縦書き。それも、高齢者が読みやすいからだ。
 「住民に伝えたい情報を第一に考えている。持った情報は必ず伝える」。そんな気概を持って新聞を作り続けている。
 創刊号のトップニュースは、市立3幼稚園の統合案が浮上していることを伝えた。その後は、支所の統合や廃止のおそれがある路線バスの問題などをとりあげた。ときには、伐採された桜が地蔵として「再生」した、という心温まる話題も載せた。
 100号は特別にカラーで印刷。来賓席から取材した小中学校の卒業式などの記事を掲載した。
 学区の浜崎博さん(77)は「一般的なテレビや新聞よりも見られている」と話す一方、1人でボランティアでやっていることを心配する。
 実際、野々口さんは「現役の(新聞記者の)ときより忙しい」。ここ7年は宿泊を伴う旅行に行けていない。だから、いまは発行から10年で区切りを付けようかと思っている。
 だが、不安がある。それは、昔と比べて新聞から地域のニュースが減っていることだ。記者が減っているから仕方がないとは思うが、「住民の情報源が心配。発行から10年が経っても続けているかもしれない」。そう言って苦笑した。
 「膳所市民ニュース」は1983年12月、旧膳所町と大津市の合併から50年を記念して創刊した。こちらは年4回発行し、今年3月で154号になった。
 タブロイド判で4ページ。2018年5月に発行した131号からは、縦書きから横書きのレイアウトに大胆に変更。カタカナなどが読みやすく、編集もしやすいと考えた。
 判断したのは、そのときから編集長を務める寺田智次さん(72)。記者経験はないが元大津市職員で、都市計画部長などを歴任した。同市広報課長の中島真介さん(54)も製作を担う。
 2人もボランティアだ。レイアウトなどを考え、実際の編集は印刷会社に依頼。5千部印刷し、膳所学区内の自治会加入世帯などに配っている。
 住民が知っていそうで知らないことを伝えることに重きを置く。地域を自慢に思ったり、膳所学区に住み続けたりするきっかけになってほしい、と願って発行している。
 危機感は日吉台新聞と同じ。「膳所の情報が報じられることは少ない。そこを補っていかないといけない」と寺田さん。
 紙面の作りは大胆で、1面はテーマを設けて特集記事を展開。最新の154号は、能登半島地震でボランティア活動をした住民のルポを載せた。
 読者からの声を紙面づくりに生かしているといい、このルポもそうだった。この特集は反響があり、5月19日午後2時から、膳所市民センターで住民による活動報告会を開催することになった。
 寺田さんも中島さんも膳所で生まれ育った。「情報発信をしていく人を地域でつくっていかないといけない」。寺田さんは将来を見据えて、そう語った。(仲程雄平)