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広がる草の根の「おもてなし」 「外国人おもてなし語学ボランティア」に聞く

掲載日:2021.06.17

東京都は、東京2020オリンピック・パラリンピック大会を見据えて、外国人観光客などが安心して東京に滞在できる環境を整えることを目的に、2015年度から2019年度まで、「外国人おもてなし語学ボランティア」育成講座を実施しました。受講者数は5万人以上。今回は、講座を受けた人たちが、どんな活動に取り組んでいるか、グループで活動している2人と、個人で活動している2人に、それぞれお話をうかがいました。

「外国人の道案内に活かしたい」
「英語に触れる機会に」
きっかけはそれぞれ

日常生活の中で、困っている外国人を見かけたらお手伝いする、そんな外国人おもてなし語学ボランティアの育成講座で出会い、グループで活動をしているのは、鈴木伸幸さんと井上透さんです。鈴木さんはグループについて次のように紹介します。

「メンバーは全員で6人。2019年に開催された育成講座で出会い、仲良くなったメンバーでともに活動しています。10代から50代まで、世代もキャラクターもバラバラです。グループで活動しているものの、ボランティアですから“参加できる人が参加すればいい”というスタンスで活動しています」

ビデオ会議でインタビューに応じる鈴木伸幸さん
ビデオ会議でインタビューに応じる鈴木伸幸さん

育成講座で出会った2人ですが、受講しようと思ったきっかけはそれぞれです。

「私は以前から外国人観光客を道案内する機会が多く、その中におもしろい出会いがあったことから、本格的にやるにはどうしたらいいんだろうと、漠然とインターネットを検索していたときに、外国人おもてなし語学ボランティア育成講座を見つけ、“これだ!”と思い、参加しました」(鈴木さん)

「僕が講座を受講したのは高校生のときです。英語が好きで、大学でも英語を専攻しようと決めた頃に、母親に勧められたのが、外国人おもてなし語学ボランティア育成講座。これなら英語に触れる機会を増やせると思って参加を決めました」(井上さん)

必要なのは英語力よりも
コミュニケーション力

「外国人おもてなし語学ボランティア」として活躍するためには、英語力にそれなりの自信がないと難しいイメージがありますが、実際はどうなのでしょう。
鈴木さんは「英語力に自信があったかと聞かれると、それはNO。今でも不安のほうが大きいです」と笑います。

井上さんも同じく「学校での英語の授業に関してはそれなりに得意な方だとは思うのですが、会話となると、学校で習った英語がそのまま通用するわけではないので、自信はありませんでした」と続けます。

育成講座受講後、カナダでホームステイをした井上透さん
育成講座受講後、カナダでホームステイをした井上透さん

しかしそんな英語力への不安を和らげたのが育成講座だったと2人は口をそろえます。

「教材として“扇子”や“風呂敷”など、海外の人が興味を持っているのに英語に訳しにくいワードをまとめてあるヘルプカードが配布されましたが、これが便利で、普段から持ち歩くほど気に入っています。メンバーの中には、“講座を受けたことで、自信が付き、困っている外国人がいたら身体が勝手に動くようになった”と言う人もいますし、“志が同じ仲間ができた”ことを喜んでいる人もいます。大変有意義な講座だったと思います」(鈴木さん)

「ほかにもいろいろ便利な教材が配布され、特に僕の場合は観光案内によく使われるフレーズ集がすごく役立っています。最初の一言さえ出れば、あとは不思議と会話はつながっていくもの。必要なのは、英語力というよりも、気合いやコミュニケーションをとりたいという気持ちではないでしょうか」(井上さん)

「お互い様」の気持ちが
ボランティアの根源

鈴木さんは社会人、井上さんは学生として、それぞれ忙しい日々を送っている中、おもてなしの活動を続けています。その理由について聞くと、井上さんは「単純に人助けをすると気持ちがいいじゃないですか」と明るく答えてくれました。

「日本語ではない外国語での人助けですから、達成感は2倍に。道案内といっても、目的地までご一緒するケースもあるので、“どこから来たんですか?”みたいな雑談をすることも多いんです。するとどんどん会話が盛り上がって、その瞬間がもう楽しくて、楽しくて」

情景が思い浮かんだのか、鈴木さんも思わず笑顔になってことばを重ねます。

「彼らの旅の思い出の一部に自分がいるんだと思うと不思議です。あの感覚はちょっと特別ですよね。前に井上くんが、活動について、“感謝されるし、楽しいし、英語の勉強になるし、いいことしかないでしょう!”と言っていたことがあるのですが、本当にそうだなと思います」

2019年11月 アメリカ人の親子を案内
2019年11月 アメリカ人の親子を案内

また鈴木さんは活動を続ける理由について、昔を振り返りながら、思いを語ってくれました。

「恩返しの気持ちもありますね。大学生のときにアメリカを旅行したのですが、当時はスマホなんてないから、道に迷ったら人に聞くしかなかったんです。そのとき、みなさんからすごく丁寧に教えてもらったのがずっと心に残っていて、“助けてもらったんだから助けたいな”というのが私の原点。私の助けが巡り巡ってまた私を、または私の家族を助けてくれるかもしれませんし、お互い様って気持ちでいます」

様々な困りごとに
対応できるのが
グループで活動する強み

育成講座を受講した人は、日常生活の中でおもてなし活動をスタートします。多くの方は、通勤通学の途中や繁華街などで、困っている外国の方のお手伝いなどをしています。その一方、メンバーが集まって繁華街などで活動をしてきた鈴木さんは、自分たちのグループと活動を、次のように説明します。

「私たちのグループは年代もバラバラですが、それぞれの得意分野もやっぱり違うんですよ。その“違い”こそがグループであるメリットかなと思います。例えば、東京の地理や交通機関に詳しい人、観光名所、グルメなどの知識が豊富な人など多種多様なので、いろいろな要望に対応出来ますし、わからないことがあっても、会話する人とスマホで調べる人と役割分担することで、早く、的確な案内ができます。また、海外旅行が好きなメンバーもいるので、行ったことがある国の人だと会話もはずみます。旅行者はどこか警戒している部分があるので、井上くんのような若くて、優しい笑顔の持ち主がいることもグループの強みです。関西出身の男の子が、怒涛のコミュニケーションで場を明るくしてくれることもありますし、多彩なキャラクターがそろっているから、いろんな困りごとに対応できているのだと思います」

さらに、井上さんは次のように付け加えます。

「ボランティアをする側としてもグループのメリットってあって、年代や性別を超えて、同じ志を持った仲間と活動するのは純粋に楽しいんです。もし“ボランティアをやってみたいけれど、1人ではちょっと……”と考えている人がいるのなら、ボランティア関連のイベントなどを通じて仲間を見つけるといいと思います」

2019年9月、イギリス人親子を駅構内で案内(左側はチームメンバーの馬場さん)
2019年9月、イギリス人親子を駅構内で案内(左側はチームメンバーの馬場さん)

アフターコロナの東京での
活動へ高まる意欲

新型コロナウイルス感染症の影響で、来日観光客は大幅に減っています。ただ、アフターコロナの世界では、これまで以上に外国人おもてなし語学ボランティアの果たす役割は大きくなるのではと鈴木さんと井上さんは話します。

「コロナ禍の今でも“コロナが終わったら日本に行こう”と考えている海外の人は大勢いるでしょう。アフターコロナとなると、反動でかつてないくらいの観光客が訪れるのではと考えています」(鈴木さん)

「僕もそう思っています。来年か、再来年かは分かりませんが、また東京がたくさんの観光客でにぎわう日が来ることを楽しみにしているので、そのときにもっとスムーズな案内ができるよう、英語力もコミュニケーション力も高めておきたいですね」(井上さん)

「ありがとう」のことばが、
活動を支える

個人でおもてなし活動をしている方たちは、どんな気持ちで活動をしているのでしょうか。

東京マラソンや2019年に開催されたラグビーのワールドカップなど、スポーツイベントでのボランティアにも取り組んできたコピーライターの下原一晃さんは、育成講座を受ける前から、都内で道に迷っている外国人に道案内をすることがよくあったそうです。

「講座を受けて、特に良かったのは、おもてなし編の講座です。簡単なことばで会話する、相手が道に迷っているなら、今探している場所だけではなく目的地がどこなのかまで聞いて相手がスムーズにたどり着けるよう配慮するなど、具体的な接し方の参考になりました」

2019年、東京マラソンのボランティアに参加した下原一晃さん
2019年、東京マラソンのボランティアに参加した下原一晃さん

下原さんは、外国人へのボランティア活動のやりがいについて、「ありがとう」と言ってもらえる喜びが大きい、と言います。

「せっかく日本に来てくれた外国の人に、嫌な思いをして欲しくない。ちょっとした声かけで、日本のことを好きになってもらえるならそれがうれしい。相手から“ありがとう”という感謝のことばをかけられると、“こちらこそありがとう”という気持ちになる」

案内した外国人に「写真を撮ってください」と頼まれてシャッターを押すと、「あなたも入って」と言われて一緒に写真に納まることも。別れ際に「私の国に来たら連絡してください」と電話番号を渡されたこともあるそうです。

「2020年には、東京都の観光ボランティアにも登録しました。今後も外国人の助けになるような活動を続けるつもりです」

人の役に立てる喜びが
活動のきっかけに

マンションのコンシェルジュカウンターで働く鈴木久美子さんは、英語にはもともと興味があったものの、一人で勉強しても、自分の生活の中では使う機会がないのではないか、と一歩踏み出せないでいました。

東京2020大会の開催が決まり、自治体の広報で「外国人おもてなし語学ボランティア育成講座受講者募集」の文字を見て、「英語を学び、使うチャンスもある。やってみたい」と感じたと言います。
「相手が喜んでくれることが自分の喜びだと感じるタイプ」だという鈴木さんは、特に「おもてなし」ということばに惹かれたと言います。

2020年2月、外国人おもてなしフォーラムに参加した鈴木久美子さん
2020年2月、外国人おもてなしフォーラムに参加した鈴木久美子さん

「“おもてなし”という要素がないと、通訳を求められている気がして、どこか自分とは縁遠い印象を持ったかも知れません。人の役に立てるんだ、ということがはっきりわかり、受講を決めました」

講座を受け、もっと英語の勉強をしたい、と感じた鈴木さんは、スマートフォンに英会話を学ぶためのアプリを入れたり、ラジオで英語のニュースを聞いたりしているそうです。
また、外国人おもてなし語学ボランティアをきっかけに、他の分野のボランティアにも興味を持つようになり、地域の防災ボランティアにも参加するようになりました。

「自分の好きなこと、興味のある分野のボランティア活動は、自分のためにも役立つと思っています。例えば、私が行っている防災ボランティアは、災害時の不安解消につながります。これからも、自分のペースで活動を続けていきたいです」

MESSAGE 鈴木 伸幸さん 私と同年代の50代の方は、仕事も子育ても、ひと段落する頃だと思います。知識や経験を活かすには、ボランティアも一つの方法ではないでしょうか。ぜひ、“Let's give it a try”、一緒に東京の街を盛り上げていきましょう。MESSAGE 鈴木 伸幸さん 私と同年代の50代の方は、仕事も子育ても、ひと段落する頃だと思います。知識や経験を活かすには、ボランティアも一つの方法ではないでしょうか。ぜひ、“Let's give it a try”、一緒に東京の街を盛り上げていきましょう。
MESSAGE 井上 透さん “ボランティア”と聞くと 少しハードルが高いと感じるかもしれませんが、 いわばちょっとした人助け。 日常生活の延長にある活動です。 メッセージとしては“Take action!”の一言。 大げさに捉えず、構えずに誰でも気軽に参加してみてほしいです。MESSAGE 井上 透さん “ボランティア”と聞くと 少しハードルが高いと感じるかもしれませんが、 いわばちょっとした人助け。 日常生活の延長にある活動です。 メッセージとしては“Take action!”の一言。 大げさに捉えず、構えずに誰でも気軽に参加してみてほしいです。