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日本三大火祭り「向田の火祭」を守れ 担い手不足、能登半島地震が追い打ち…県内外からボランティアを募集へ

2025.06.30
 日本三大火祭りの一つに数えられる石川県七尾市能登島の「向田(こうだ)の火祭(ひまつり)」(県無形民俗文化財)が今夏、初めて県内外にボランティアを要請することが、関係者への取材で分かった。深刻化する少子高齢化に能登半島地震が追い打ちを掛け、担い手不足が顕著に。島民で守ってきた地域の伝統行事だが、観光客の体験ツアーを初めて受け入れる準備を進めていることも判明。伝統の火を守るため、門戸を広げ、持続可能な形で後世に受け継いでいく。(染谷明良)

◆祭りは地元住民のみで行われてきたが

 祭りの舞台となる同市能登島向田町は、地震で大きな被害が出た。みこしや奉燈(ほうとう)が担ぎ出される伊夜比咩(いやひめ)神社の石の垣根は崩れ落ち、祭りの会場を案内する高さ約3メートルの石碑は折れた。地震から1年半の節目を迎えるが、いずれも修復のめどは立っていない。

 祭りはこれまで基本的に地元住民のみで行われてきた。実行委員会では何とか伝統を受け継いでいこうと、これまでは実施していなかった島外のボランティア団体などの受け入れを巡って議論。「誰が面倒を見るのか」などの意見も出たが、人員確保や祭りの魅力発信などを図るために受け入れはやむなしと判断した。

◆祭りの準備段階から体験ツアーも企画

 計画では、7月26日の祭り当日と前日で計20人のボランティアを要請。県が実施する派遣事業「祭りお助け隊」を活用する。地域の観光振興に取り組む地元の法人「ななお・なかのとDMO」も外部との交流を後押し。祭りの準備段階からの体験ツアーを企画している。

 実行委事務局の高橋俊朗さん(47)は「地震で能登に目が向いた今が絶好の機会とも言える」と前向きに捉える。「いずれ外部から人を受け入れる必要があった。地元住民にとっては当たり前の祭りだが、お金を払ってでも手伝いに来たり見に来たりする人がいる。『残す必要がある価値ある祭りだ』と住民に思ってほしい」と話した。

 向田の火祭 石川県七尾市能登島向田町に鎮座する伊夜比咩神社の夏祭り。毎年7月の最終土曜日に行われ、今年は7月26日。神社近くの広場に高さ30メートル、重さ10トンの巨大なたいまつが燃え盛る。海側に倒れると豊漁、陸側に倒れると豊作になると伝わる。能登を代表する伝統行事だが、新型コロナ禍で2020年、21年は神事のみで執り行われた。能登半島地震が起きた2024年は、開催を巡って賛否が割れたが、復興祈願の思いを込めて開催した。

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◆災害は祭りの価値が再評価されるとき

 ボランティアは祭りの継承にどう関わるといいか。

 NPO法人「日本の祭りネットワーク」の苦田秀雄理事は、みこしの扱いなどその祭りの決まり事を学ぶ姿勢が安全につながると説き、「地域で培われたあうんの呼吸がある。よく勉強すると楽しいし、地元の人もうれしい」と語る。

 災害は祭りの価値が再評価されるときでもある。苦田氏は岩手県陸前高田市の津波被災地で、公民館で祭りの飾りをつくる高齢女性が「人が集まることがうれしい」と語るのを聞いた。

 新潟県中越地震で全村避難した旧山古志村では、祭り「牛の角突き」のために帰村した人も多かったという。亡くなった保存会長の言葉が苦田氏の胸に残る。「私たちは民俗文化を守ってきたと思っていたが、そうじゃない。民俗文化に私たちが守られていたんだ」

 苦田氏は、人々が手弁当で協力しあうことを祭りの特長に挙げ、地域外からのボランティアにも「お手伝いをきっかけに(被災者らと)細く長くつながっていくことが大切だと思う」と語った。(福岡範行)