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一緒に楽しむこともボランティア【パラスポーツのボランティア】

掲載日:2024.04.05

みなさんは「パラスポーツ」について、どんなことを知っていますか。「ボッチャ」や「ブラインドサッカー」など、耳にした方、目にした方もいるかもしれません。パラスポーツの特徴の1つが、競技数の多さです。実はサッカーだけでも7つの競技があったり、「ボッチャ」などパラスポーツならではの競技もあったりと、奥深い魅力にあふれています。

その多種多様な競技をサポートするのがボランティア。いったいどのような魅力やサポートのコツがあるのでしょうか。初心者向けの講習会「TOKYO 障スポ&サポート ボランティア講習会」に密着しました。

座学と実技、気づきがたくさん「TOKYO 障スポ&サポート ボランティア講習会」

参加者はメモをとりながら講師の話に真剣に耳を傾けていました

「TOKYO 障スポ&サポート ボランティア講習会」は東京都、(公社)東京都障害者スポーツ協会、東京都パラスポーツ指導者協議会が主催しています。この講習会は年に3回開催されていますが、半日で座学と実技で学べるということもあり、毎回定員を超える応募があるそうです。今回の参加者は、都内近郊から集まった23人。高校生から年配の方まで、幅広い世代が参加していました。

参加者はまず3つの講義を受講します。

最初の講義では、スポーツボランティアについてアイスブレイクをしながら楽しく学び、続く講義では、先輩ボランティア3名から、パラスポーツボランティアの魅力や役割、やりがいなどを聞きました。みなさん、選手の成長の様子を自分事のようにうれしそうにお話しする姿が印象的です。

競技用車いすを持参して説明する先輩ボランティア 佐藤健(けん)さん

3つ目の講義では、視覚障害や聴覚障害、肢体不自由などの特徴を学び、それぞれに対するコミュニケーションの配慮について理解を深めました。

そしていよいよ、実技の時間です。体育館に移動し、2つのチームに分かれて、視覚に障害のある方へのサポート体験と、競技用車いすの乗車・サポート体験を行いました。

視覚に障害のある方へのサポートでは、2人1組のペアで、視覚に障害のある方役とガイド役を交互に体験します。段差や狭いカーブなどのコースが用意されていて、ひとりが実際に目をつぶり、もう一人が腕をとってもらってガイドをします。歩数やメートルで距離を伝える方法、時計のクロックポジションで位置を伝える方法などを学び、ガイド役のみなさんは「10メートルまっすぐ歩きます」「5歩先に段差があります」など工夫して伝えていました。
「目が見えないと、こんなに怖いんだということがわかりました」という声も聞かれました。

狭い通路では横に並ばずに、肩につかまってもらってガイドしていました

車いす体験では、まず乗り降りする際のサポート方法を学んだ後、実際に車いすバスケットボール用の車いすに乗ってみました。ターン、ジグザク走行などに挑戦し、最後は進みながらボールをドリブルします。最初は難しそうでしたが、何度か挑戦するうちに、みなさんスムーズにできていました。

競技用車いすは、少しの力で滑らかに動きます

最後に、誰でも参加できるスポーツである「ふうせんバレーボール」の体験を通して、半身まひのある方、視覚に障害のある方などと一緒にプレーする場合のサポート方法を学びました。ゲームは大いに盛り上がり、障害の有無に関わらず、一緒にプレーできるふうせんバレーの楽しさをみんなで味わいました。

障害者の役を体験しながら、障害の特性やサポートの方法を学びます

初心者からベテランまで、ボランティアそれぞれの想いとは

この日、講習会に参加した井上美樹さん(59)は、ろう者の一家と知り合ったことがきっかけで、手話の勉強やパラスポーツのボランティアを始めたそうです。近所でパラスポーツ競技に携わりたいと、パラスポーツ指導員になることを目指しています。
講習会終了後、「視覚に障害のある方へのサポート体験が印象に残っています。ガイドする際の声掛けの方法などがよくわかりました。講師の方や先輩ボランティアは、声のトーンが高く、明るく話していて参考になりました。運動は苦手だけど、これからも頑張りたいです」と話していました。

ボランティア講習会に初めて参加した井上美樹さん

そして、講習会の参加者のなかには高校生の姿もありました。同世代の障害者とバスケットボールをプレーする機会があり、人と人とをつなげるスポーツの力を実感して、ボランティアに興味を持ったそうです。
「スポーツには、障害のある方もない方も、誰もが楽しめる力、垣根を越えられる力があるんだなと改めて感じました。今日の学びを生かして、今後は積極的にボランティア活動に関わっていきたいです。そして、障害のある子どもも一緒にスポーツを楽しめる場を提供するボランティア団体をつくるという夢をかなえたいです」と笑顔で答えてくれました。

パラスポーツボランティアとして活動するときは白いメガネと決めているという佐藤健(たけし)さん

講習会に先輩ボランティアとして参加した佐藤健(たけし)さん(54)は、ボランティアをはじめたきっかけをこのように話してくれました。

「高校では陸上競技をやっていました。知的障害のある子のお母さんに、一緒に走ってほしいと頼まれたのが一番初めのきっかけです。自分が大会で記録が出るよりも、その子の記録が出るととてもうれしくて。現在も月に1, 2回、地元を中心に陸上とその他の競技を半々ぐらいやっています。『地域のボランティアおじさん』として、子どもたちのかけっこ大会から、陸上選手の合宿まで、とても楽しいです」

一番のやりがいについては、「成長する過程を間近でサポートできることです。サポートした相手が記録を出したりして喜んでいる姿を見ると、自分のことよりも2倍うれしいですね」と佐藤さんは笑みを浮かべます。

そんな佐藤さんに、ボランティアに興味のある方へのメッセージを聞いてみました。
「障害やパラスポーツについて、知識がないから、技術がないからできないと、自らハードルを上げている方がとても多いです。でも、見守るだけ、受付するだけ、ちょっと着替えを手伝ってあげるだけと考えると、なんだかできそうな気がしませんか。誰でもできるサポートがたくさんあります。
パラスポーツは、競技する人と同じだけサポートする人が必要になります。『ちょっと練習相手しますよ』とか、『球拾いしますよ』とか、『付き添いしますよ』と手を挙げてくれる人がいたら、とてもうれしいです。ぜひ、一歩を踏み出してみてください」

ボランティアのコツはまずは自分が楽しむこと

自身も学生時代に車いすバスケの魅力に引き込まれたという坂田悠也さん

東京都障害者スポーツ協会の坂田悠也さん(38)は、気軽にボランティアに参加してほしいと次のように話します。

「パラスポーツのボランティアの『基本のき』をこの講習会では伝えていますが、もちろん講習会に参加していなくても、ボランティアには参加できます。

障害のある方とのコミュニケーションや、サポートができるか不安だという方もいます。でも、コミュニケーションの難しさは、障害の有無に関係なくあるものだと思います。
なので、一緒に楽しむところから気軽に始めていただきたいですし、わからないことがあれば、気軽に質問してみてください。
もし、不安な方は、事前にどういう障害の方が参加されるのかを把握するといいと思います。例えば、聴覚障害者の方が多いのであれば、手話以外のコミュニケーションツールがいろいろとあることを知っておくと、コミュニケーションを取るうえで役立ちます」

また、ボランティアに参加しやすい競技について聞いてみると、特に競技によって差はないということでした。
「パラスポーツのボランティアは本当に幅広いです。最近では、一緒に競技をやって楽しむ、応援するなどのボランティア活動も増えてきました。内容は募集する団体が、どういうボランティアを求めているかにもよります。
『TOKYO 障スポ&サポート』のウェブサイトには、たくさんの競技、役割のパラスポーツのボランティア情報が掲載されています。気になるもの、ピンときたものから気軽に申し込んでみてください」

最後に、ボランティアをするうえで大切なことを聞きました。
「まずは自分が楽しむこと、それが大前提です。楽しんでいる様子は、自然と周りに伝わっていきます。ぜひ、ハードルを高く考えず、パラスポーツを一緒に楽しむ姿勢で参加してみてください」