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ボランティアは社会を「自分ごと」にできるチャンス【学生団体おりがみ】

掲載日:2021.12.01

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)を自分たちの手で盛り上げたい―。そんな思いを抱いた学生たちが集まった「学生団体おりがみ」。東京2020大会は新型コロナウイルスの感染拡大による1年延期、大半の競技会場での無観客、と異例ずくめの開催でしたが、学生たちは何に取り組んだのでしょう。また、東京2020大会以外での活動は? 代表を務める東洋大学3年生の杉本昂熙(たかき)さんに聞きました。

――「2020 うえの夏まつり~不忍夢(しのばずのゆめ)」が、東京2020大会が開催される東京を文化の面から盛り上げる「Tokyo Tokyo FESTIVAL」に学生唯一の企画として採択されました。どういう内容だったのですか。

上野でおよそ50年前に途絶えてしまったお祭りを、大会前の2019年に復活させました。上野にはアメ横商店街という「街」と、上野の森美術館などがある「山」それぞれの文化があります。でも、街に行く人は最初から街へ、山に行く人は山へ、という人の流れができていて物理的な分断があります。

「うえの夏まつり」ではかつてあった盆踊り大会を復活させ、お祭りという非日常的な空間で地域の人たちがともに踊り、笑うことで一体感を生み出すことを目指しました。3日間で約1万人の来場者が訪れて大盛況でした。小さい子、若者、高齢者、外国人。多様な人が集まって盆踊りをする姿に「ダイバーシティ」を実現できたと感じました。2020年は残念ながらオンラインでの開催となりましたが、ライブで600人が参加しました。

およそ50年前のお祭りを復活させた「うえの夏祭り」

―東京2020大会の公式ボランティアとして活動された学生さんも多かったのでしょうか。

そんなに多くはなく、200人のうち10人くらいでしょうか。「おりがみ」は様々な形で東京2020大会に関わることを目指してきました。公式ボランティアに漏れてしまったり、何らかの理由で申し込みできなかったりした学生に参画方法を提示することが私たちのミッションでした。そういう意味で、間接的ではあるものの東京2020大会に関わることができ、地域の社会課題の解決にも寄与した「うえの夏まつり」はとてもおもしろく、印象に残っています。

――東京2020大会以外の活動にも取り組んでいますよね。

「Earth Light Project」は、炎をスペースバルーンで打ち上げて、成層圏から炎越しの地球を撮影。ライブ配信して多くの人が同時に視聴することを目指すものです。こちらはコロナが加速させた世界の分断を乗り越えるシンボルにすることを目的にしています。

「おりがみ」が幹事団体となり、おりがみ以外の若者も集まりました。クラウドファンディングでの資金集め、リターンの設計、スタッフの役割分担、企業との連携総括を事務局長として担当したのですが、200人を超えるメンバーをまとめるのは大変で、目標金額の750万円に達成した時には体調を崩しました。

ただ、お金を集めるのはあくまでも準備段階です。そこから、成層圏に炎を打ち上げることがどうして分断の解決になるのか。共生社会とは何なのか。みんなで考え続けました。自分たちの取り組みに意味づけをしていくことで、社会と関わるということを理解できました。

コロナが加速させた世界の分断への解決策としたEarth Light Project

――「分断」をどう考えますか。

分断は、グループを作ることで生じると感じました。仲間は必要ですが、小さなグループをいくつも作るのではなく、地球をひとつの大きなグループだと考えることが大切です。そうすれば人と人、人と環境が共生できるのではないかと思っています。

大学受験の失敗をバネに「おりがみ」に参加

――杉本さんが「おりがみ」に参加するようになったきっかけにはどういうものだったのですか。

大学受験に失敗したことでした。10年以上続けていたサッカーを中学3年生でやめて勉強一筋の生活を送ったのですが、目指した大学に受からず浪人生活を2年送りました。それでも希望の大学には入れず、自分自身がいたたまれない気持ちになり、大学では何か大きなことをしよう、目立とう、と思うようになりました。

大きなことを考えた時、東京2020大会が思い浮かびました。それに関わる団体を自分で立ち上げようと思ったのですが、すでに「おりがみ」があり、イベントに参加させてもらったら規模とクオリティの高さに驚き、ここでまた挫折です。「おりがみ」で色々と学ばせてもらうことにしました。

――入ってみて感じた「おりがみ」はどういう団体でしたか。

代表や副代表だけではなく、一人ひとりに自分にはない強さやまねできない面があってすごいと思いました。途中でおりがみはやめるつもりだったのが、接していくうちにおりがみのメンバーが好きになっていきました。こうしたメンバーの集まりが、おりがみを作っているのだと感じました。

――今年の7月には代表になりましたね。

前代表は創設者でもあるのでプレッシャーはすごくありましたが、自分から名乗り出ました。今のおりがみは前代表が7年かけてつくったものなので、メンバーが半分になるのではないかという心配も当初はありました。でも、メンバーと一緒になって、おりがみを今後10年、20年と続いていくものにしていきたいと思っています。

これからがレガシーの始まり

――「おりがみ」が目指した東京2020大会は終わり、新しい理念を打ち立てましたね。

「『おもしろそう』から始まる共生社会」です。「おりがみ」が当初目指した東京2020大会は終わりましたが、たくさんのプロジェクトを生み出せたので、それらを残すために新しい理念を考え直そうとずっと言葉を探し続けました。

「おもしろそう」から始めるボランティアは、実は隠れた問題に取り組むことであり、みんなで進めることで、それは解決へと向かいます。おりがみには、様々な分野を得意とするメンバーが集まっているので、分野を越えて魅力的なボランティアをともに創っていきたいです。

東京2020大会を「終わり」ではなく「始まり」にしたいと思っています。これからがレガシーの始まりです。

――杉本さんにとってボランティアとは何ですか。

ボランティアは、社会を「自分ごと」にできるチャンスだと思います。共生社会や世界平和、国際、文化、教育といってもあまりピンときませんが、それに「ボランティア」という言葉を媒介させると、とたんに色々なことが身近になります。この「自分ごとにできる」ことこそ、ボランティアの大きな可能性ではないでしょうか。

ボランティアに参加する時には三つの軸で考えるといいと思っています。「社会にとって意味があるのか」「相手にとって意味があるのか」「自分にとって意味があるのか」です。たとえ社会のためになる活動でも、自分のためにならないと思うのであれば無理はしない。ボランティアは自己犠牲ではありません。三つの軸すべてが合うボランティアは必ずあります。

「興味があるかどうかをやってみる前に決めるのはもったいない」と杉本さんは話す