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東京マラソンのボランティア 障害のある人とない人、誰もが主役に

掲載日:2022.07.14

快晴の青空の下、この日を待ち望んでいた多くのランナーたちが都心を駆け抜けました。

新型コロナウイルスの影響で2021年は実施されなかったため、2年ぶりの開催となった2022年3月6日の東京マラソン。パリ2024大会の代表選考レースの出場権をかけた熾烈(しれつ)なレースであると同時に、思い思いのユニフォームに身を包み、苦しみながらも楽しそうな市民ランナーが多く見受けられました。

給水所で、沿道で――。1万9188人もの参加者とともに存在感を示したのが多くのボランティアたちです。その中には、さまざまな背景をもつ人が支え合って活動した「Team JSVN」もありました。

Team JSVNは、どういうチームなのでしょう。東京マラソンでTeam JSVNが活動した意義は?参加したボランティアと、Team JSVNの担当者に聞きました。

いつも受けるサポート 今度は私も

折り返し付近となる20km地点にある給水所。

午前10時から午後1時ごろにかけて市民ランナーが通過するこの場所で、メッセージが書かれたボードを掲げ、ランナーにしきりに手を振っていたのは齊藤麻美さんです。齊藤さんは聴覚に障害があります。

スポーツボランティアは3回目ですが、これまでのボランティアはゴミ拾いなどで、人とのコミュニケーションはあまりありませんでした。今回は、手を振れば振り返してくれる人がいたり、ペアを組んだ相手・田口夏男さんとのやりとりがあったり。

マスクをしているため、唇の動きで発言を読み取れないこともありましたが、そんな時は手話を趣味にする田口さんが手話で介してくれました。

サポートしてもらうことが多いため、自分も誰かの力になりたいと日頃から思っていたという齊藤さん。「人と触れ合うことの楽しさを改めて感じてうれしかったです」と声を弾ませました。

マスク越しでもはっきりと笑顔がわかる齊藤麻美さん

おそろいのユニフォームで一体感

机においたコップに次々とお水やスポーツドリンクを入れては空になっていくペットボトルをつぶして片付けていたのは、初めてスポーツボランティアに参加した吉井彩香さんです。ダウン症があります。父親が遠くから見守る中、ほかにも「ファイト!」と書かれたカードを掲げたり、振ってランナーを励ましたり。

Team JSVNのメンバーは、この日の空と同じような真っ青なウェアと黄色いキャップで、おそろいのユニフォームに身を包みました。

吉井さんは「みんなで同じ服を着て一緒に活動できて楽しかったです。走っている人から手を振ってもらい、私もバンザイしました」と元気に話しました。

手を振ってランナーにエールを送る吉井彩香さん(手前)

苦手なことは補い合えばいい

この日、ボランティアに参加したTeam JSVNのメンバーは、リーダー2人を含め計32人。障害のある人とない人がペアになり、いくつかのグループに分かれてリーダーを中心に給水活動などに取り組みました。

Team JSVNをとりまとめたのは、特定非営利活動法人 日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)です。2012年に設立されたJSVNは、ボランティアを必要とする団体と、ボランティアに参加したい人をつなぐ事業などを展開しています。

2019年春からは、誰もがスポーツボランティアに関われる環境づくりを開始。ホームページのデザインや研修時に投影する資料のユニバーサルデザイン化などを進めてきました。

そして、誰もが楽しくボランティアに参加できる機会を設けようとした時、チームの形であれば活動がスムーズではないかと考えたのが今回の企画です。

JSVN事務局の但野秀信さんは、「国内最大規模のランニングイベントである東京マラソンで実践できたのは、とても有意義なことだと思っています」と話しました。

「誰にでも苦手なことがあり、それは障害の有無だけではありません。体力がなく疲れやすい、老眼で小さい字が見にくいなども『苦手』の一つ。障害はその人にとって『苦手なこと』ですが、仲間と補い合えば何も問題ありません」

 

たくさんの意見が出た報告会

大会当日から約1週間後の3月12日、「Team JSVN活動報告会」がオンラインで開催されました。事務局から活動に関するアンケート結果が報告されたほか、参加した約20人が自由に意見を言い合って活動を振り返りました。

知的発達障害のあるメンバーの家族からの「いつもは黙っているのに隣の人とも笑顔で話していて、うれしそうな顔が見られました」というコメントや、「コンセプトや活動内容がよかった」という声。一方、「休むタイミングがわからず、休みたい時に休みづらかった」「サブリーダーがいた方がよかった」と次につながりそうな意見がたくさん出ました。

 

報告会に参加した冨樫英之さんは、左半身に麻痺があります。普段は仕事勤めの傍ら、アスリートとして大会に出場し、障害のある人に水泳を教えるボランティアをしています。

今回の活動では、トイレが活動場所から500m離れていて往復するのが大変だったそうですが、「障害があっても意外と色々なことができるんだ、ってわかってもらえたんじゃないかと思います」と話しました。「私自身、こんなに長時間立っていられるとは自分でも思っていませんでしたから」

日頃から水泳で体を鍛えている冨樫英之さん

リーダーを務めた渡辺仁さんによると、現場での作業をスムーズにするために、事前のグルーピングをしっかりしたそうです。

3人を1グループとし、グループ内の性別のバランスにも配慮しました。「トイレや体調不良などの相談は、やはり同性のほうが頼りやすいですからね」

今はリーダーの渡辺さんも、自身のボランティアの出発点は2008年の東京マラソンでした

最後に、但野さんは「障害のある人もない人も、みんなが楽しかったと言ってくれた今回の活動は、これからに向けた大きな一歩です。こうしたことを、他の大会でもできるようにしていきたいと思っています」と締めくくりました。

「様々な立場の人が意見を言い合った報告会も意義がありました」と但野さんは言いました