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東京2020大会で「ちがいを知り、ちがいを示す」ために、ボランティアが今できること【日本財団 ボランティアサポートセンター】

掲載日:2021.03.12

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」)を控え、スポーツイベントの現場で活躍するボランティアが注目されています。東京2020組織委員会は、「Know Differences, Show Differences.ちがいを知り、ちがいを示す。」のアクションワードのもと、ダイバーシティ&インクルージョンを大会ビジョンの実現、ひいては東京2020大会成功の原動力として位置づけています。そこで、障害のある人がボランティアとしてスポーツイベントに参加する後押しをする「日本財団ボランティアサポートセンター」と、視覚障害者で、東京2020大会にボランティアとして参加予定の秋吉桃果さんに、活動内容やその意義について伺いました。

PROFILE

日本財団ボランティアサポートセンターは、ボランティアの楽しさを日本中に届け、 人と人とのつながりを生み出し続けます。

日本財団
ボランティアサポートセンター

2017年6月に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と日本財団が締結したボランティアの連携・協力に関する協定に基づき、当該協力に係る事業を実施する団体として設立されました。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」)を控え、スポーツイベントの現場で活躍するボランティアが注目されています。東京2020組織委員会は、「Know Differences, Show Differences.ちがいを知り、ちがいを示す。」のアクションワードのもと、ダイバーシティ&インクルージョンを大会ビジョンの実現、ひいては東京2020大会成功の原動力として位置づけています。そこで、障害のある人がボランティアとしてスポーツイベントに参加する後押しをする「日本財団ボランティアサポートセンター」と、視覚障害者で、東京2020大会にボランティアとして参加予定の秋吉桃果さんに、活動内容やその意義について伺いました。

大会終了後のレガシーも見据えて。「ボラサポ」の取り組み

大会組織委員会ではダイバーシティを「多様性」「一人ひとりのちがい」、インクルージョンを「包括・包含」「受け入れる・活かす」と説明します。つまり東京2020大会が目指すのは、一人ひとりが互いの違いを認め合う世界です。

そしてボランティアを通じてこの世界を実現しようと尽力しているのが、日本財団ボランティアサポートセンター(以下、ボラサポ)です。設立は2017年の9月。日本財団グループのボランティア育成・運営のノウハウを生かし、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の運営をサポートするため設立されました。

ただしボラサポが見据えているのは、東京2020大会の成功だけではありません。ボラサポで視覚障害者のボランティア支援を担当するスタッフの山田周さんは、

「東京2020オリパラのボランティア運営はもちろん、当初から、大会終了後のレガシーについても見据えて動いています。ボランティアに参加した方がオリパラの終わった後も、ボランティアを続け、共生社会の礎を築いてほしいという思いもあります」

と、活動の目的について語ります。様々な活動を行うボラサポですが、なかでも力を入れているのが、障害のある人のボランティア参加の促進です。2018年9月、東京2020大会のボランティア募集開始の前日には、日本パラリンピック委員会委員長の河合純一さんらを発起人として視覚障害者の方に向けたボランティアセミナーを、2019年1月には聴覚障害者に向けたボランティア説明会を開催しました。

パラ駅伝で活動する視覚障害のあるボランティア=2019年4月、日本財団ボランティアサポートセンター提供

障害者と健常者がともにボランティアという場を共有することでどんなメリットが生まれるのでしょうか。ボラサポスタッフの高橋由香さんは次のように話します。

「視覚障害者と一言で言っても、見え方は人によって異なりますから、お互いのコミュニケーションの中でその人の個性を確認することになります。こうしたやり取りを通して、“人と自分は違う”ことが自然と理解できるようになりますし、相手を知ることの重要性にも気づくことができます」

PROFILE

日本財団ボランティアサポートセンターは、ボランティアの楽しさを日本中に届け、 人と人とのつながりを生み出し続けます。

日本財団
ボランティアサポートセンター

2017年6月に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と日本財団が締結したボランティアの連携・協力に関する協定に基づき、当該協力に係る事業を実施する団体として設立されました。

楽しく、分かりやすく情報を届けることが
レガシーにつながっていく

楽しく、分かりやすく
情報を届けることが
レガシーにつながっていく

ボラサポのサポートもあり、今でこそリピーターとしてボランティアに参加する障害者の方が増えたといいますが、設立当初は、困難も壁にぶつかることも多かったと高橋さんは振り返ります。

「何も分からない状態からのスタートで、まずは意見交換からはじめました。実際にボランティアに参加した方に活動を振り返ってもらい、見つかった課題を次のイベントに活かす、というトライアンドエラーで進めていったので、みんなで作り上げていったという思いが大きいです。やはり大事なのは、事前にボランティアの方に役割や時間配分について細かく説明すること。視覚障害者が周囲の状況がわからず手持ち無沙汰になる時間が生まれないように配慮するなど工夫を続けることで、回を重ねるごとに満足度が上がっていきました」

新豊洲サマーナイトフェスで活動するボランティア=2019年8月、日本財団ボランティアサポートセンター提供

新型コロナウイルスの感染拡大でリアルなイベントの開催は難しくなったものの、オンラインでのボランティアセミナーの開催や、動画の発信を通じ、ボラサポは有益な情報を届けられるように動き続けました。ただ企画をするだけではなく、とにかく楽しく、分かりやすく発信するのがこだわりです。その理由について山田さんは次のように説明します。

「ボランティアに来てくださった方に、何をお返しできるのだろうか。ここを常に意識しています。参加する前から楽しく、分かりやすい形で情報を提供するのはその一環。心の部分をケアすると満足度が上がり、自然とイベントが活気づきます。そしてやがてはレガシーとなってつながっていくと考えています」

障害者と実際に話すことで一人ひとりの違いに気づく

障害者と実際に話すことで
一人ひとりの違いに気づく

ボラサポのイベントのほか、さまざまなスポーツイベントでボランティアを経験し、「ボランティアは楽しい」と語るのは、秋吉桃果さんです。視覚に障害のある秋吉さんは現在、筑波大学理療科教員養成施設に在籍し、特別支援学校の教員免許の取得を目指しています。

秋吉桃果さん

「初めてボランティアに参加したのは高校生のとき。当時は普通の公立高校に通っており、先生の勧めで友達と参加したのがきっかけです。私の障害についてよく知っている友達と参加をしたため安心していたのですが、実際の現場では、初めて会う人とも一緒に活動します。久しぶりに自分の見え方について話し、できること、できないことを説明するうちに、“ああ、これは私にとってとてもいい経験だな”と感じるようになりました」

大学生になってからはさらに、新しい人間関係を作る大切さを実感するようになったと言います。

「大学では障害のある人と一緒に行動することが多くなりました。それはそれで勉強になることも多いのですが、一方でそうでない方と関わる機会が減ってしまったのです。それが残念だったため、筑波大学のサークルに入ったり、大学のスポーツイベントにボランティアとして参加したり、積極的に新しい出会いを増やすようにしました。やはり自分の生活圏から出なければ、新しい世界は築けないと実感しました」

また、障害のある人と会話をする機会を持つことは、健常者にとっても気付きがあるのでは、と話します。

「身近に視覚障害者がいないと、“視覚障害者とはこういうもの”と思いがちで、人それぞれの“違い”に目が向かないと思うんです。実際は人それぞれ見え方が違いますし、白杖を利用する人もいれば、しない人もいます。まったく見えなくても映画が好きな人だっています。健常者同士でも、話さなければ相手の人となりが分からないように、障害者ともコミュニケーションを取らなければ、相手がどういう人かは分かりません。ボランティアなどで一度、障害者と関わってその“違い”を知ると、街で困っている障害者の方を見たときの声のかけ方なども変わってくると思います」

ボランティアは新しい世界を拓くきっかけになる

ボランティアは新しい世界を
拓くきっかけになる

秋吉さんは今夏、パラリンピックのボランティアとしてオリンピックスタジアムでのガイドを担当する予定です。新型コロナの影響への心配はあるものの、ボランティアに参加する日を待ち遠しく感じているといいます。

「私にとってボランティアは人とつながるコミュニケーションのひとつです。社会に貢献したい気持ちや責任感が無いわけではありませんが、一番は自分の楽しみのために参加しています。一緒に参加する人と楽しく活動し、そこから何か自分の実になることを吸収できれば最高。同時に、弱視である私がボランティアに参加することで、他の参加者に、何かを考えるきっかけになれたらさらにうれしいと思います」

パラフェス2018で活動する秋吉桃果さん(中央)=2018年11月、日本財団パラリンピックサポートセンター提供

将来、故郷の熊本で盲学校の教員になることが今の秋吉さんの目標です。しかし彼女の夢はそれだけではありません。

「障害がある人とない人をつなぐ役割をしたいと思っています。形式ばったものではなく、友達になれるような環境を作りたいんです。実際に話す機会が増えれば、お互いにどういう風に考え、どう動いていけばうまく共生できるかを自然に考えるようになると思うので。合理的配慮といっても、お互いを知らなければ配慮の仕方なんて分かりませんから」

人と人とがつながり、共に生きていく社会を作っていきたいと話す秋吉さんですが、その有効な手段のひとつがボランティアであると捉えているそうです。

「しかもお金もかかりませんし、1日で終わるものもあるから気楽。お稽古事のように、春でなければ始められないなんてこともありません(笑)。ぜひコミュニケーションの一環として楽しんでほしいと思います」

障害者スポーツボランティア
情報配信システム
「TOKYO 障スポ&サポート」がスタート!

障害のある方のスポーツ活動を支える人・支えたい人を後押しするため、ボランティアの募集や講習会の情報等をタイムリーに配信するシステムを公開しました。

いろいろな背景のある人が集まるというのがボランティアの魅力。そこには海外から来られた人もいれば、障害のある人もいるでしょう。参加することで新しい視点をもらえると思うので、これまでボランティア経験が無かった人にもぜひ参加してほしいと思います。日本財団ボランティアサポートセンター 山田 周さん

いろいろな背景のある人が集まるというのがボランティアの魅力。そこには海外から来られた人もいれば、障害のある人もいるでしょう。参加することで新しい視点をもらえると思うので、これまでボランティア経験が無かった人にもぜひ参加してほしいと思います。日本財団ボランティアサポートセンター 山田 周さん
東京2020大会を機に関心度が高まっています。この盛り上がりを維持し、活動を持続させるには、ボランティアの力が欠かせません。ファンから一歩進んで、ぜひボランティアに進んでほしいと思います。日本財団ボランティアサポートセンター 高橋 由香さん

東京2020大会を機に関心度が高まっています。この盛り上がりを維持し、活動を持続させるには、ボランティアの力が欠かせません。ファンから一歩進んで、ぜひボランティアに進んでほしいと思います。日本財団ボランティアサポートセンター 高橋 由香さん
ボランティアは人とつながるコミュニケーションのひとつです。普段はやらないような経験ができるとてもいい機会です。不安に感じる気持ちは分かりますが、思い切って一歩を踏み出してみると、そこに新しい世界が広がっていますよ。東京2020大会ボランティア 秋吉 桃果さん

ボランティアは人とつながるコミュニケーションのひとつです。普段はやらないような経験ができるとてもいい機会です。不安に感じる気持ちは分かりますが、思い切って一歩を踏み出してみると、そこに新しい世界が広がっていますよ。東京2020大会ボランティア 秋吉 桃果さん