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妊娠・出産・子育て情報をすべての人に【きずなメール・プロジェクト】

掲載日:2022.08.12

妊産婦さんや子育て中の保護者に、LINEやメールで「安心・つながり・たのしみ」を継続的に届けることで、「孤育て」を防ぐことを目指した「きずなメール」。

「孤育て」「産後うつ」「乳幼児虐待」といった社会課題がある今、メッセージの配信を通じて妊産婦さんや子育て世帯の不安を和らげ、親と子のきずなや、夫婦間のきずな、地域とのつながりを強めていこうとしています。

2022年3月からは、日本に住む外国人の方を対象に「きずなメール やさしい日本語版」を配信。

活動をおこなう「特定非営利活動法人 きずなメール・プロジェクト」と、活動を支えたボランティアの方々にお話をうかがいました。

妊娠・出産・子育て情報を切れ目なく

きずなメールには、妊娠中にお届けする「マタニティきずなメール」、そして、0~2歳児の保護者に3年間お届けする「子育てきずなメール」の2種類があります。

妊娠初期から出産後100日までは毎日、そのあと3歳の誕生日までは3日に1回〜14日に1回の頻度で、約540通のメッセージが切れ目なく届けられます。

例えば、妊娠期12週と4日には、赤ちゃんの様子として「赤ちゃんののどに声帯ができる時期です。声帯は声を出すために必要なものです。でも、赤ちゃんがママのお腹の中で泣いたり声を出すことはありません。」などと届きます。

そのほか「妊娠していることにはもう慣れましたか? 少しおなかがふくらんできて、ママになる自覚や喜びを感じるときもあれば、『ちゃんと親になれるかな』『無事に生まれてきてくれるかな』といった不安を感じるときもあるかもしれません。不安や迷いの気持ちをひとりで抱えていると、よけいに落ち込んでしまうこともあります。少し気持ちを外に向けて、家族や友人、病院のスタッフ、地域の相談窓口に話してみましょう。」といったアドバイスもあります。

33の自治体、5つの医療機関に導入されていて、導入地域で受け取る場合、地域の子育て支援情報もあわせて届けられます。

配信方法はLINE、Twitter、メール、自治体・医療機関のアプリなど、読む人の環境に合わせていくつもあります。

ボランティアの力を得て「やさしい日本語版」を制作・配信

「きずなメール・プロジェクト」を運営するのは「特定非営利活動法人きずなメール・プロジェクト」です。

同法人の広報・ファンドレイジング担当のオノヘレ浩子さんによると、これまでの配信に加え、新たに「やさしい日本語版」を始めたのは、「日本で暮らす多くの外国籍の方に情報を届けたい」という思いがあったからだそうです。

これまでに海外向けではタイ語版やインドネシア語版、在住外国人の方向けには英語版を制作しましたが、次に翻訳する言語を考えた時、他の外国語ではなく「やさしい日本語」で情報を届けようという考えに至ったのだといいます。

きっかけは、同法人の理事を務める医師の話でした。医師のもとに来る在住外国人の数は年々増え、国籍も様々。共通で話す言語は英語よりも日本語なので、「やさしい日本語」で配信をするとよいのではないか、ということでした。

そして始動した「やさしい日本語版」の制作プロジェクト。日本語の「きずなメール」を抜粋し、日本語教師のチームが医師などの監修のもと「やさしい日本語」に翻訳。その漢字にふりがなをふり、文節の切れ目ごとに区切る「分かち書き」をする作業に力を発揮したのがボランティアの方々です。「ボランティアの力を借りることが、活動を多くの人に知ってもらうきっかけにもなるのでは、と考えました」とオノヘレさんは話します。

東京ボランティアレガシーネットワークに募集情報を掲載したり、SNSで呼びかけたりしたところ、日本全国や海外から50名ほどの有志が集まりました。
全国各地のボランティアたちは主にオンライン上で、「やさしい日本語」の原稿にふりがなをつける作業と分かち書きをする作業にあたりました。

チャットツールが大活躍! オンライン上でのボランティア

ボランティアの作業は、二人一組のペアになって行いました。

一人が表ツール(Googleスプレッドシート)に書き込まれた原稿に、専用のツールを使ってふりがなをつけ、分かち書きをする作業。そして、もう一人がそのふりがななどが合っているかを確認する作業をしました。

ボランティアの作業ののち、妊娠22週4日段階のメールは次のような文面に形を変えました。

<あかちゃんの 様子(ようす)>
あかちゃんが ねるとき、色々(いろいろ)な からだの形(かたち)で ねます。
おきたときは、手(て)を上(うえ)に あげます。
そして、足(あし)を、下(した)にさげて、からだを、ながくします。
わたしたちと、同(おな)じ ですね。

コロナ禍で非接触が求められる中、ボランティアの活動には様々なオンラインツールが支えとなりました。

Googleスプレッドシートは、オンライン上で共有され、多くの人が同時並行で入力作業を行いました。また、ボランティア同士や事務局とボランティアのやりとりは「Chatwork(チャットワーク)」というチャットツールを利用しておこなわれ、対面ではないながらも活発にコミュニケーションがなされました。

実際に利用していたGoogleスプレッドシート

Chatwork

ボランティアに参加した埼玉県の会社員・青木哲生さん(37)は「オンラインで完結するボランティアは初めてでしたが、やりやすかったですし、遠方に住んでいる人でも参加できるのでいいですね」とオンラインならではの魅力を語りました。

東京都の会社員・松山亜紀さん(52)は、金曜日の夜や週末の昼間に30分〜1時間ほど時間を作って作業にあたりました。

「意外と注意深く気を配らなくてはいけない作業で慣れるまでは時間がかかりましたが、とてもやりがいがありました。妊娠初期から出産に向けて原稿の内容は変化します。出産直前に送られるメッセージ『赤ちゃんがもういつ生まれても大丈夫ですね』には、自分自身の子育ての記憶が思い出されました」と、活動しながら何度も心が温まったといいます。

兵庫県の団体職員・釣友子さん(32)は、保育士として働いていた経験や、タイで日本語を教えていた経験を生かせるのではないかとボランティアへの参加を決めたそうです。

「もっとやりたい、もっと読みたいと思うくらい楽しかったです。オンラインなので、ペアの方にうまく改善案を提案するのが難しかったという面はあります。でも、チャットで積極的にコメントをしてコミュニケーションを盛り上げるなどの工夫で、終始楽しく活動ができました」と話します。

オノヘレさんは「オンラインのみのやりとりは手探りでしたがみなさんの協力に励まされ、本当にありがたく感じました。これからもこの経験を生かし、ボランティアの方々の力を借りながら『きずなメール やさしい日本語版』の普及に取り組んでいきたいです」と、今後の活動を見据えます。

ボランティアに携わった人たちが参加したオンライン交流会の様子