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動物と来園者をつなぐ【動物園のボランティア】

掲載日:2025.07.14

広大な敷地で動物たちがのびのび暮らす多摩動物公園。ここでボランティアが動物のガイドとして活躍しているのを知っていますか。ボランティア団体「東京動物園ボランティアーズ」(略称TZV)のドーセントグループが、来園者に動物たちの魅力を伝えています。活動に密着しました。

来園者との会話を楽しみ、動物の生態や魅力を伝える

多摩動物公園正門

東京西部の日野市にある多摩動物公園は、1958年に開園しました。アジア園、アフリカ園、オーストラリア園、昆虫園の4つのエリアに分かれた総面積52.3haの広大な敷地で、約260種の動物が飼育されています。

年間約90万人が訪れるこの動物園で、日曜日を中心に活動しているのがドーセントグループ(略称DG)です。ドーセント(docent)とは、英語で「案内人」「解説者」の意味。来園者に動物の生態や魅力を伝える「スポットガイド」を園内各所で行っています。

キリンのガイドを務める紅林由紀子さん

アフリカ園のキリンの放飼場では、多くの家族連れが足を止めていました。長い舌で器用にエサを食べるキリンを見上げる男の子に、そっと近づいて話しかけたのは、トレードマークの青いエプロンを身に着けたDGのメンバー。「舌は何センチあると思う?」「どうしてこんなに長いのかな?」。相手の視線や興味を探りながら、キリンの生態を紹介します。

動物好きが高じてボランティアになり、DG活動27年目になる紅林由紀子さん。「来園者との会話がやりがいになっています」と笑顔を浮かべます。「動物に詳しい子が、『キリンのかかと、どこだか分かる? あそこだよ』なんて私に説明をしてくれるんですよ。一緒に動物トークに興じるのも楽しいです」

列を作って巣まで葉っぱを運搬するハキリアリ

多摩動物公園のキャッチコピーは、「アリからゾウまで出会えるところ」。DG活動歴10年以上の爲光(ためみつ)弘和さんは、まさにキャッチコピーのとおり、午前は昆虫園でハキリアリを紹介し、午後はアジア園のアジアゾウ舎でスポットガイドをしています。

どの動物を担当するかは希望制。爲光さんのように複数の動物をかけもちする人もいます。ハキリアリのガイド中によく質問されるのは「クロアリとの違い」とのこと。「身近な生き物から興味の幅を広げてくださるのはうれしいですね」

DGメンバーが作った手作りの解説パネル

アジア園のサル山では、新井薫さんがメンバーお手製のパネルを見せてくれました。
「ニホンザルの歩きかたはどれ?」というクイズ形式で、「ずっと二本足」「こぶしをつける」「手のひらをつける」の三つのイラストから答えを選んでもらいます。どれが正解かは目の前のサルを見ていたらわかるそうです。来園者にじっくり動物を観察してもらうための工夫の一つとのこと。新井さんは飼育員の方とも定期的に情報交換し、活動に役立てています。

「伝えたい、動物たちのこと」ボランティアが語る喜びと舞台裏

DGでチンパンジーグループのリーダーを務める内藤功輝さん

「今の、おならの音?」。アフリカ園のチンパンジー舎の運動場では、DGの内藤功輝さんが来園した親子連れにガイドをしているところでした。
「おならじゃなくて、口をブーブーと鳴らしている音なんです。デッキーというオスと、メスのミルがよくやっていて……」。内藤さんが答えると、この日初めて来園した小学生の女の子は「へぇ~」と感心したようにじっとチンパンジーを見つめました。

保護者の男性は「柵がないのに外に逃げ出さないのは、運動場の周りの堀に水が張ってあるからと教わりました。チンパンジーが泳げないなんて知らなかった」と驚いていました。「ただ見ているだけじゃそんなことには気づけませんよね。ガイドさんの話を聞けてよかったです」

多摩動物公園では約20頭のチンパンジーが一緒に暮らしています

3歳の娘さんと共に内藤さんのガイドを聞いた男性は、「娘と同い年のチンパンジーがいるという話をきっかけに、『暖かいアフリカに暮らすチンパンジーは繁殖期が決まっていない。だから4月生まれも12月生まれもいる』と教えてもらいました。反対に、寒いヒマラヤにいるレッサーパンダはほとんど6、7月生まれだという話も興味深かったです」と、レッサーパンダへの興味も増した様子でした。

チンパンジーグループのリーダーを務める内藤さんは、大学2年の春から活動を始めて今年で14年目。インドサイが大好きで、子どもの頃に何度も多摩動物公園を訪れていました。「一度は足が遠のいたのですが、高2のときにたまたま図書館で借りたチンパンジーの本に感動したのがきっかけで、チンパンジー舎に入り浸るようになりました」。一緒に動物園を訪れた友人が自分の話を楽しんで聞いてくれたことが、DG応募の動機になったそうです。

チンパンジーの動きに注目するよう来園者に促す内藤さん

内藤さんの所属するチンパンジーグループは月に2回、午前10時半から午後2時半まで活動しています。心がけているのは「聞き手に目の前の動物から背を向けさせないガイド」だと言います。

「図鑑やインターネットを見ればわかるような話ではなく、いま目の前で起きていることを解説することで、チンパンジーのことが伝わるようにお話しています。生きた動物が目の前にいるのが、動物園の価値ですから」

園では取材当日、19頭ものチンパンジーが飼育されていました。チンパンジーの知識に自信がなかったり、見分けがつかなかったりしても、ガイドは務まるのでしょうか? 内藤さんの答えは「できます」でした。「新人さんには、まずはチンパンジーを見てもらって、気がついたことをどんどん話してもらいます」

「例えば、『運動場を見て気がつくことはありますか?』『高いところにいますね』『なぜだと思います?』『木の上で暮らす生き物だから?』『そうですね。木の上で暮らすチンパンジーは木の上で手に入るものを食べています。どんなものでしょうか?』『葉っぱや木の実?』……。こうしたやりとりは、そのままガイドに生かせます。目から得られる情報だけでも、じゅうぶん動物のことを説明することができるんです」

内藤さんが最もうれしかった出来事は、来園者に「こんなにわかりやすいガイド、初めてです」と言われたこと。「今後も活動を通して、動物や動物園に興味を持ってくださる方を増やしていきたいです」

発足から50年。600人以上が活動するTZV

昨年50周年を迎えたTZV。シンボルマークは黄色い大きなくちばしのオニオオハシです

1974年に活動を始めたTZVは、国内で最も古い歴史をもつ動物園ボランティア。昨年50周年を迎えました。「長く続けてこられたのは、会員それぞれが『来園者に動物と動物園への興味を深めてもらうために、何ができるか』を考え、熱意を持って常に新しいことに取り組んできた結果です」。そう話すのは、DGの幹事長・小田原昌則さんです。

TZVの会員は現在609人(2025年4月時点)。多摩動物公園、上野動物園、井の頭自然文化園の3園で、今回紹介したDGと、園内を案内するサービスガイドグループ(略称SG)の2つのグループに分かれて活動しています。「DGとSGの人数の内訳は大体半々で、DGがやや多いですね。DGは3園でかけもちもできますので複数の動物園で活動する人もたくさんいます」

応募年齢下限の18歳から、上は80歳くらいまで、さまざまな経歴を持つ人々がDGで活躍しています。例年9月に説明会を行い、書類選考、講習会、翌年3月の最終選考を経て、40人ほどが4月から会員に加わります。

「講習期間は10月から2月まで。月1回の講習会では動物園協会の方や各園の職員による組織や歴史、動物や施設などの説明解説があります。講習会のない日は現役の会員と一緒にスポットガイドの実習を行います。実際の活動のイメージをつかんでもらってから、どの動物園でどの動物を担当するかを決めていただいています」

DGの小田原昌則幹事長

動物が好きな方の応募が多いそうですが、「動物に関する知識はなくても大丈夫」と小田原さん。

「来園者は動物に詳しくない人がほとんど。その目線に合わせて会話のキャッチボールができることの方が大切です。来園者に『今日は楽しかったな、動物についてもっと知りたいな』と思ってもらえたら、それで十分です。動物と来園者の架け橋になるのが、私たちの役割ですから。基本的な知識は全て講習会で学べるし、会員と一緒にガイドの実習をする機会もあるので、みなさん不安なく活動しています」

メンバーに小田原さんが望むのは「楽しく、長く続けてもらうこと」。「バックグラウンドが異なるメンバーが、それぞれの得意なこと、好きなことを生かして活動しています。大学のサークルのようなイメージで、気負わずに参加してほしいですね。動物園側と擦り合わせをして、自分のアイデアで解説ができる環境なので、そうしたやりがいも感じられると思います」

TZVは現在、DGの新しいメンバーを募集しています。動物園でのボランティアに興味を持った方は、まずは9月の説明会に参加してみてはいかがでしょうか。